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幕の間の出来事32: 若林奮の文章
 


今年出版された作家・保坂和志さんの『小説、世界の奏でる音楽』(新潮社)という単行本の中に、彫刻家・若林奮の文章についての文章が収録されているそうです。

若林奮の文章はその彫刻作品と同質感の魅力があると以前こちらのコラムでもご紹介したことがありますが、今でも手に入る著書に『若林奮ノート』『対論・彫刻空間」』(共に書肆山田発行)などがありますので、もし機会がありましたらお手にとってみてはいかがでしょうか。『若林奮ノート』に収録されている中から「ラスコーに寄せて」という文章の一部をご紹介させて頂きます。

 

……最初に人間が絵を描いてから、約二万五千年から三万年以上にまで最近はさかのぼるとしても、その数字自体はあまり意味は持たないだろう。おそらく大事なのは最初にその様な行動に出た人間の、その時の状況であると思われる。その時のことが、そのまま現在につながっているとは考えられないが、その後人々は絵を描き続けてきたし、現在でもそうである。絵画や彫刻の成り立ちは、その要素において、その後、変化していると思われるが、人間が最初に絵を描いた時となにかが継続しているとすれば、そのことについて考えてみるのもよいかもしれない。来年はとりあえずは、今迄の延長上で過ぎることとして、そこになにか加えるならば、最初に絵を描くことによって、人間らしいものになったという説に同意するとすれば、そのことが、その先の現在や将来に影響するかもしれないと想像することになるのだろう。

  若林奮「ラスコーに寄せて」
  (「美術の窓」2000年1月掲載、『若林奮ノート』pp.16-17収録)より一部抜粋

 

 
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